障がい者がはたらく就労継続支援「A型事業所」と「B型事業所」を耳にするけど、その違いがよくわからない…というかたが多くいます。
「目的が違うのだろうか?」
「障がいの重い、軽いで、わけているのだろうか?」
と、疑問を感じた人もいるでしょう。
そこで本記事は、就労継続支援A型事業所とB型事業所の違いを、わかりやすくご紹介します。
そもそも就労継続支援A型事業所・B型事業所とは?
どちらも障がい者にたいし、はたらく機会と生産活動の機会のていきょうを目的とした施設です。
もともと授産(じゅさん)施設や小規模作業所とよばれていたのですが、2006年(平成18年)に就労継続支援「A型事業所」・「B型事業所」と名前をかえて誕生しました。
雇用契約をむすぶ、むすばないがおおきく違う
A型事業所は利用者と雇用契約をむすび、B型事業所はむすばないが、2つの大きな違いです。
雇用契約は、決められた時間はたらく対価として賃金を支払うのを約束することです。
たいせつな約束なのでA型事業所は契約書を作成し、利用者はサインと押印をします。
この雇用契約を交わすと「労働基準法」が発動します。
労働基準法とは
〇賃金
〇労働保険(雇用保険や労災保健)
〇有給休暇
などの労働条件の最低基準を、雇う人は労働者に保証しなさいと国が決めたルールです。
ではなぜ「はたらく」を同じ目的としているのに、雇用契約を一方はむすび、もう一方はむすばないのでしょうか?
それはA型事業所は週20時間以上の労働を利用者に求めますが、B型事業所は週1回30分からの作業でもよいとしているからです。
「福祉」と「労働」の分野にまたがった施設がA型事業所。なので利用者は雇用契約をむすび労働基準法にまもられる。
それに対して福祉を中心とした施設が、B型事業所です。
B型事業所は、はたらくためのリハビリの場所ともいえるでしょう。
対象者が違う
A型事業所とB型事業所は、対象者が違います。
厚生労働省ホームページには
就労継続支援A型事業所
一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の提供を行います。
就労継続支援B型事業所
一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労の機会の提供を行います。
引用:障害者の就労支援対策の状況 | 厚生労働省 より
と記されています。
かんたんにいうと、A型事業所は就労が可能なひとを、B型事業所は就労が困難なひとを対象にしているのです。
では、それぞれが具体的にどんな人なのか、みてみましょう。
【就労継続支援A型事業所】
1.就労移行支援事業を利用したが、企業等の雇用に結びつかなかった者
2.特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが、企業等の雇用に結びつかなかった者
3.就労経験のある者で、現に雇用関係の状態にない者
※平成30年4月から、65歳以上の者も要件を満たせば利用可能。
【就労継続支援B型事業所】
1.就労経験がある者であって、年齢や体力の面で一般企業に雇用されることが困難となった者
2.50歳に達している者又は障害基礎年金1級受給者
3.1及び2に該当しない者で、就労移行支援事業者等によるアセスメント により、就労面に係る課題等の把握が行われている者
引用:障害者総合支援法における就労系障害福祉サービス | 厚生労働省 より
B型事業所にある「障害基礎年金1級受給者」とは
他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできないほどの障害の状態です。身のまわりのことはかろうじてできるものの、それ以上の活動はできない方(または行うことを制限されている方)、入院や在宅介護を必要とし、活動の範囲がベッドの周辺に限られるような方が、1級に相当します。
引用:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額 | 日本年金機構 より
最低賃金が保障される、されないが違う
都道府県名 | 東京 | 大阪 | 福岡 | 沖縄 |
最低賃金時間額【円】 | 1113 | 1064 | 941 | 896 |
労働基準法にまもられているA型事業所の利用者は、最低賃金が保証されます。
最低賃金は雇う人が支払う、もっとも低い金額の賃金で都道府県ごとに決められています。
A型事業所の利用者には、最低賃金✖働いた時間分が支払われます
B型事業所の利用者には、最低賃金が保証されません。
事業所の収入から必要経費を差し引いたものが支払われるので、最低賃金を下回ることが多くあります。
労働保険(雇用保険や労働者災害保障保健)がある・ないが違う
A型事業所の利用者は、一週間の労働時間が20時間以上になると2つの制度に加入できます。
1つ目は「労働者災害保障保健(略して労災保険または労災ということも)」で、仕事や通勤が原因でケガや病気をした労働者をまもるための制度です。
2つ目は「雇用保険」で、勤めていた会社を辞めてからつぎの会社に就職するまでに必要な支援をおこなってくれる制度です。
週30時間以上勤務すると「健康保険」「厚生年金」にも加入できますが、そのような利用者はまれなため、しないのがほとんどです。
B型事業所の利用者は労災がないため、国は「任意保険の加入と安全衛生管理をできるだけ行いましょう」と、呼びかけています。
有給休暇がある・ないが違う
決まった期間をつづけてはたらくと有給で休める権利がA型事業所の利用者にはありますが、B型事業所の利用者にはありません。
理由は有給休暇が労働基準法のルールなので、B型の利用者には該当しないからです。
有給休暇は1年目に10日間で、勤務年数が増えるごとに日数が増えていきます。
労働の対価を「賃金」「工賃」と区別する違い
はたらいてもらえる給料をA型は「賃金」、B型は「工賃(こうちん)」と区別しています。
工賃は、モノを制作・加工するための労力や技術に対する報酬をさす言葉です。
たとえば
〇オイル交換の工賃を支払う
〇エアコンの修理に工賃がかかる
の使い方をします。
しかし現在、B型事業所では
〇ホームページ作成
〇求人サイト編集
〇動画編集
〇出品代行
〇Tシャツをデザインしての通販
と、多種多様な仕事をしています。
「Tシャツをデザインした通販からの工賃です」は、あわせる言葉としては違和感を感じてしまういますね
これについてはいろいろな意見や考えがありますが、
雇用契約をむすんで支払われるお金。
雇用契約をむすばずに支払われるお金。
それぞれを区別するために「賃金」「工賃」の言葉をつかいわけています。
A型事業所とB型事業所の違いとして
1:A型事業所は雇用契約をむすぶ。B型事業所は雇用契約をむすばない。
2:A型事業所は就労が可能な人。B型事業所は就労が困難な人。
3:A型事業所は最低賃金が保障される。B型事業所は最低賃金が保障されない。
4:A型事業所は労働保険がある。B型事業省は労働保健がない。
5:A型事業所は有給休暇がある。B型事業所は有給がない。
6:A型事業所は「賃金」。B型事業所は「工賃」。
の6つの違いを紹介しました。
つまりA型とB型の違いのおおもとは、雇用契約を「むすぶ」、または「むすばない」ことです。
参照資料
◎『障害者とともに働く』
藤井克徳 星川安之
株式会社 岩波書店
◎『図解でわかる障害福祉サービス』
二本柳 覚
中央法規出版株式会社
◎『障害者に対する支援と障害者自立支援制度[第4版]ー障害福祉制度·障害者福祉サービス【社会福祉士シリーズ14】』
峰島厚 木全和巳 富永健太郎
株式会社弘文堂
◎イラスト
Loose Drawing|無料で商用利用可能なフリーイラスト
https://loosedrawing.com/